
お母さまを亡くされた直後、ご葬儀の席で、三人の妹さんたちが「兄さんに全部任せるから」と言ってくれた。長男として、ありがたい言葉だったと思います。
ところが少し落ち着いてから、遺産分割の相談で電話をしてみると、どうも歯切れが悪い。
ご葬儀の席で
「兄さんに全部任せるから」
少し落ち着いてから
「もう少し考えさせて」
「一度うちの人に聞いてみるね」
あのときの言葉と、少し違う気がする。
実は、これは私どもが最もよくお聞きするご相談のひとつです。
話し合いをこじらせないための3つの準備
- 準備① 兄妹だけで数字の話をしない
- 準備② 相続専門の税理士に依頼する
- 準備③ 売却する不動産は、複数社の価格を並べる
妹さんたちの気持ちが変わったわけではありません
ご葬儀の場は、悲しみと、身内としての一体感が最も強くなる瞬間です。そこで出た「任せる」は嘘ではありません。本心です。
ただ、そのあとご自宅に帰ると、それぞれに別の家族がいます。ご主人がいて、お子さんの学費があり、住宅ローンがあります。「そうは言っても、権利はあるんだから」「相場は聞いておいたほうがいい」。悪気なく、そう言われることは珍しくありません。
変わったのは妹さんたちの気持ちではなく、
話す相手が増えたということなのです。
ここを「裏切られた」と受け取ってしまうと、話し合いは一気にこじれます。

準備① 兄妹だけで数字の話をしない
このとき、お兄さまが一人で財産を調べ、一人で分け方を考え、それを妹さんたちに提示する——という進め方は、あまりおすすめできません。どれだけ公平に作っても、「兄が決めた案」に見えてしまうからです。
準備② 相続専門の税理士に依頼する
税理士に依頼する意味は、相続税の申告ができるというだけではありません。次のような資料を、第三者の立場で作ってもらえることに価値があります。
相続専門の税理士がつくってくれる「第三者の資料」
✓ 財産の一覧
✓ 不動産の評価額
✓ 納税額の試算
同じ数字でも、身内が書いた紙と、専門家が作った書面とでは、受け取られ方がまったく違います。
また、分け方や、誰が何を相続するかによって税額が変わる場面も多くあります。代表的なものは次のとおりです。
ご家庭の状況によって当てはまるものは異なります。たとえばお父さまがすでに亡くなっている場合、配偶者の税額軽減や二次相続の検討は当てはまりません。一方で、ご実家を誰が相続するかによって、小規模宅地等の特例が使えるかどうかが変わることがあります。
ここは経験の差が大きく出るところですので、相続の取扱件数が多い税理士をお選びください。特例が使えるかどうかは要件が細かく定められていますので、適用の可否は必ず税理士にご確認ください。
税務については税理士、不動産の名義変更は司法書士、相続人間で争いになった場合には弁護士など、状況に応じて専門家を使い分けます。
準備③ 売却する不動産は、複数社の価格を並べる
分割のためにご実家や空き地などを現金化する場合、仲介で時間をかけて売る方法のほか、納税までの期間によっては買取業者への売却も選択肢になります。どちらの場合も、1社だけの提示で決めないことです。
複数の会社から価格を出してもらい、比較する。これは価格を上げるためだけの作業ではありません。複数の査定書が並んでいれば、「この金額は兄が勝手に決めたのではない」と、妹さんたちにもご家族にも一目で伝わります。
比べるのは金額だけではありません
☐ 価格(買取価格・査定価格)
☐ 引渡しの時期
☐ 残置物の扱い
家財を片付けてから引き渡すのか、残したままでよいのか
☐ 契約不適合責任の免責
引渡し後に見つかった不具合について、売主が責任を負わない取り決めができるか
最後に
相続でこじれるご家庭の多くは、仲が悪かったわけではありません。情報がそろっていなかっただけです。
専門家を間に置き、数字を全員で同じように見る。それだけで、驚くほど静かにまとまることがあります。
当社は創業から54年、さいたま市北区を中心に2,000戸を超えるお部屋の管理と、地域の不動産のご相談に携わってきました。その中で、ご兄弟の相続に立ち会う機会も数多くありました。私自身もCFP®として、また提携する税理士・司法書士とも連携しながら、財産の全体像を整理するところからお手伝いしています。お母さまが遺されたものが、ご兄妹の関係を損なうことのないように。その場づくりを、これからもお手伝いしてまいります。
よくあるご質問
Q. 相続専門の税理士には、いつ相談すればよいですか。
A. 相続税の申告期限は、お亡くなりになったことを知った日の翌日から10か月です。財産調査や不動産の評価に時間がかかりますので、葬儀後、少し落ち着いた段階で早めに相談することをおすすめします。特に不動産が多い場合などは、四十九日を待たずに相談しても問題ありません。分割案を作る前の段階でお声がけいただくのが理想です。
Q. 妹たちが「もう少し考えたい」と言うばかりで話が進みません。
A. 急がせるより、判断材料をそろえてお渡しするほうが早く進みます。財産目録、不動産の査定書、想定される納税額。この三つがそろうと、ご家族と相談される際にも説明がしやすくなり、返事が返ってきやすくなります。
Q. 実家の査定は、何社くらいに依頼すればよいですか。
A. 当社では、比較できる範囲として3~4社程度を一つの目安と考えています。多すぎるとかえって判断が難しくなります。買取業者と仲介会社の両方に依頼し、「早く確実に現金化する場合」と「時間をかけて高く売る場合」の2通りで比較されると、ご兄妹での話し合いもしやすくなります。
暮らしとお金のご相談は当社の姉妹サービス「咲いたマネー」の無料FP相談もご活用ください。
